2015年1月5日月曜日

僕らのヒットパレード

ボビーに首ったけ (角川文庫 緑 371-11)

「俺のことはボビーって呼んでくれ」

文化祭がそろそろ始まるというころ同級生の1人が急に言い出した。どうせ女の子が絡んでいるんだろう。僕らはわかったと言いながら、当日はしてやったりと「サブロー」と呼んでやった。

ボビーとはもちろん「ボビーに首ったけ」のボビーだ。みんな片岡義男の小説を読んで、バイクとサーフィンに憧れた。

彼が描く世界は映画の中の世界のようでいて、でもちょっと背伸びすれば自分でも届く世界でもあった。ただ自分ごととしての現実感は乏しく、それよりもバイクを盗み、夜中に窓ガラスを割るようなことのほうが身近だった。その後、カリフォルニアの乾いた世界からきらびやかなバブルの世界に時代は移る。

僕らのヒットパレード

片岡義男の文章をちゃんと読んだのはそれ以来だから、もう30年ぶりくらいだろう。「芸術新潮」に連載されていた、片岡氏と元ピチカートファイブの小西康陽のリレーエッセイと対談などで構成された「僕らのヒットパレード」を読むと、彼の文章を高校時代に深みが無いなどと一瞬でも思ってしまった(そして、これが片岡ファンの友人との口論の原因になった)ことが恥ずかしくなる。途方も無いほどの分量の文化の蓄積があることが、この本で述べられているレコードコレクションからわかる。蒐集家というわけでなく、本当に音楽が好きで、それを俯瞰的に眺めたいという貪欲な好奇心があるのだろう。普通の人よりは音楽を聴いているつもりの私でも知らない楽曲も多く紹介されている。知らないにも関わらず、音楽が一緒に流れているわけでないにも関わらず、読んでいるだけで心躍る。音楽の本でこんな感情を抱くのは久しぶりだ。願わくば、レコードジャケットが挿絵として紹介されていて欲しかった。

酔醒

本書を読んでいて、聴きたくなった楽曲は何曲も、アーティストは何人もいるが、ここでは2つほど紹介しよう。1つ目が古井戸だ。もちろん古井戸は知っている。私も大学ノートの裏表紙にさなえちゃんって書いた。RCサクセションに入ってからの仲井戸麗市(一説には私に似ているという話もある)の活躍はまさにリアルタイムに見ていた。だが、この「酔醒」は知らなかった。本書での紹介(小西氏による)で興味を持ち聞いてみたら、素晴らしいブルースだ。スタジオでの空気というのだろうか、生と静の空気感が感じられる。小西氏がべた褒めするのもわかる。

CRAIG HUNDLEY TRIO ARRIVAL OF A YOUNG GIANT vinyl record

Craig Hundley Trio

もう1つがCraig Hundley Trioだ。アルバムとしては"Arrival Of A Young Giant"なのだが、日本ではそれこそ中古レコード店を回って探すのでもしない限り入手不可能なようだ。iTunesでさまざまなオムニバスアルバムなどに分散された曲を集めれば、このアルバムの楽曲を全部聴くことはできそうだ。iTunesで何曲か試聴(ここからどうぞ)をしてみたが、確かにこれも素晴らしい。

ぼくが愛するロック名盤240 (講談社+α文庫)

10年位前からロック談義をしながら、ただダラダラ飲むという会を催している。最初はごく少数の仲間内での会だったのだが、数年前に思い立って、Twitterで飲み仲間を募った。

仕事の話禁止。
ロックを愛する人だけ来てください。

そんな呼びかけで集まった人たちと歌舞伎町のシャッフルビートで盛り上がった。好きなジャンルは違えど、音楽という共通の価値観があったので、話はいつまでも尽きない。震災前年まで数回続いたが、毎回終電を逃した。

本書の片岡氏と小西氏の対談は、この会の理想の姿のように思う。昔のジャズ喫茶のように肩肘張ったりすることもなく。

昨年、久しぶりにこのロック飲み会を再開したのだが、今年もまたやってみようかと思う。今度はアルコールは控えめにして。