2012年5月27日日曜日

非常識マラソンメソッド

世に言う非常識なものには、直すべき問題なものと、むしろ直さずに続けるべきものと2つある。後者は常識にとらわれないという言い方がされ、しばらくすると、もう非常識とは言われなくなる。それらは、従来には無い新しいものへの萌芽である。

成長著しい新興企業なども、非常識と言われることが多くある。そのような企業も非常識でなくなった時点で成長が止まることもあり、いかに常識というものの上に胡座をかき続けてはいけないかがわかる。

非常識マラソンメソッド ヘビースモーカーの元キャバ嬢がたった9ヵ月で3時間13分! (ソフトバンク新書)
非常識マラソンメソッド ヘビースモーカーの元キャバ嬢がたった9ヵ月で3時間13分! (ソフトバンク新書)

マラソンにおいても、同じように常識と言われるトレーニング法に疑問を投げかけているトレーナーがいる。それが、この「非常識マラソンメソッド ヘビースモーカーの元キャバ嬢がたった9ヵ月で3時間13分!」の著者の岩本能史氏だ。

岩本氏がほかの指導者と異なるのは、陸上経験が無い人にとってベストの結果を出すためにはどうしたら良いかを考え、そして試し、試行錯誤を重ねて、方法を生み出しているところにある。

従来の指導者は自らがトップアスリートであり、学生時代から陸上を続けてきているような人がほとんどだ。現在も大学や実業団などで指導していたりすることもある。

しかし、そのようなトップアスリートもしくはその候補と、一般の市民ランナーとでは、筋力から練習量から異なる。

岩本氏は一般の市民ランナーにとっての方法を生み出した。それは従来の指導法からすると、「非常識」と言われるようなものだ。

非常識でありながら、岩本氏の方法はすでに実証されている。自らで試し、配偶者で試し、そして氏が率いるランニングクラブで試されている。私の好きな「仮説と実証」の成果としての「非常識メソッド」である。

具体的にどのようなものかは書籍を読んで欲しいのだが、いくつか代表的なものを以下にあげよう。
  • 初心者でもシューズは薄底(薄いインソール)を履く
  • ランニング後にストレッチはしない
  • レース前日のカーボローディングは不要
  • レース当日はスタートの1時間前まで食べ続ける
  • レース当日のウォーミングアップは不要

この他にもいろいろとあるのだが、どれも従来から言われているものとは大きく異なる。だが、どれも理由があり、説得力がある。

たとえば、レース当日の食事だが、従来はだいたいレース開始の3時間か4時間前までに食事は終えて、胃や消化器官の負担を少なくすることが良いとされていた。だが、それはフルマラソンを3時間以内で走り切るようなランナーへのアドバイスだ。4時間以上かかる人にとっては、もしスタート3時間前が最後の食事だとしたら、7時間以上も栄養が補給されないことになる。

岩本氏は「マラソンは食べるスポーツだ」と言う。当日起きてから、何をどのタイミングで食べるべきか。さらには、スタートとした後の細かい栄養補給までも示される。

私は昨シーズン最後となる4月の長野マラソンで、氏の書籍に書かれている通りのペース配分と栄養補給を行ってみた。少し前半を飛ばし過ぎてしまったのだが、それでもぎりぎりペースを維持することができ、さらには適切に補給を行うことができたため、ハンガーノックも避けることができた。結果、ぎりぎりではあったが、目標としていた、ネットでのサブ4(4時間以内での完走)を実現することができた。

当日、私が用意したメモはこれだ。これとペース配分を書いたものを表裏の両面印刷で用意して、それを見ながら走った。

岩本氏の書籍に出会ったのが今年の始めと遅かったので、練習方法などについては取り入れてから少ししか経っていない。今秋からまたレースに出ることになると思うが、そのときが楽しみだ。書籍を読んでいると、サブ3.5でさえ可能ではないかと思ってくる。

岩本氏の書籍は4冊あるようだが、そのうちの3冊を私は読んだ(実は2冊は共通の知人経由で頂いた。ありがとうございます)。

そのうちの1冊が上に紹介した「非常識マラソンメソッド ヘビースモーカーの元キャバ嬢がたった9ヵ月で3時間13分!」であるが、もう1つ「非常識」とタイトルに入るのが、「非常識マラソンマネジメント レース直前24時間で30分速くなる!」だ。こちらは、上に述べたようなレース前日と当日の心得が書いてある。具体的にどのようなものを補給するのが良いかが詳しく書かれている。また、ホノルルマラソンや東京マラソンの走り方も書かれている。

もう1冊が「フルマラソンがもう一度速くなる30のスイッチ」だ。これはほかの2冊と内容的に重なるところが多いが、大きめの装丁で、図解などはこちらのほうが豊富だ。配偶者である岩本里奈さんがフルマラソンのタイムを5時間51分から3時間17分まで縮めた軌跡も含まれている。どれか1冊と言ったら、すべてが網羅されているので、この1冊になるのかと思うが、「非常識マラソンマネジメント レース直前24時間で30分速くなる!」に書かれている、レース当日にどの地点で何を補給すれば良いかの具体的なアドバイスも捨てがたい。お金があったら、全部買っちゃうのがお勧めだ ;-)

あとは練習あるのみ。頑張ろう。

参考記事:
ランニングのすゝめ

2012年5月6日日曜日

ソーシャルゲームのすごい仕組み

ソーシャルゲームで導入されている「コンプガチャ」が景表法(景品表示法)の懸賞にあたり、規制対象になるということが昨日報道された。

ソーシャルゲームどころかゲームさえ全くやらないので、あまり詳しくないのだが、コンプガチャとは街にあるガチャガチャ(100円とか200円でカプセルに入ったオモチャが出てくるあれだ)のような感覚で、安い価格で買えるアイテムのことらしい。どのようなアイテムが出てくるかわからないところもガチャガチャと同じ。コンプガチャのコンプとはComplete(完成させる)の略で、購入した複数のアイテムである組み合わせを完成させると、さらに希少なアイテムを入手できる。

ソーシャルゲームの社会的意義については、自分がゲームをやらないこともあり、まったくわからない。このコンプガチャにしても、そもそもゲームのしくみにしても、出玉調整を意図的に変えられていて、しかも規制がない悪徳パチンコ店で遊んでいるようにしか見えず、昨年にはその思いを「ソーシャルゲームの社会的意義」とブログ記事にしたほどだ。

ソーシャルゲームに人が夢中になる原理や業界、そしてメジャープレイヤーであるGREEやDeNAなどについて、極めてわかりやすく解説した本が「ソーシャルゲームのすごい仕組み」だ。

ソーシャルゲームのすごい仕組み (アスキー新書)
ソーシャルゲームのすごい仕組み (アスキー新書)

本書はソーシャルゲームを俯瞰するところから始まり、ソーシャルゲームが人気を博するまでの道程、ソーシャルゲームのマネタイズ方法、そこに隠された影の部分など、恐らく、現在ソーシャルゲームについて知りたいと思っていることがすべて網羅されている。

私は(繰り返しになるが)自分でゲームをやらないため、どのようなゲームがあるか、どのような人たちがゲームをしているか(30代以上が40%を占める。またゲーム内アイテムを買っているのも可処分所得の多い40代以上だ)の紹介から始まってもらったのは大変ありがたかったし、日米のゲームの違いについて知れたのも大変役立った。日本のRPGはJRPGなどと呼ばれて、海外ではあまり人気がないことなど知らなかった。また、これは自分の仕事柄知ってはいたが、海外でのソーシャルゲームといえば、PCからブラウザで行うものがほとんどで、携帯(スマートフォン)で行うものはまだ少数である。

ソーシャルゲームのマネタイズは、今まで無料が当たり前のWebの世界で、初めてと言って良いほど、コンテンツでの課金でビジネスを成立させることに成功している。それは、アイテム課金だ。そこに至るまでには、ゲームが高機能化を進めるのと並行して、当初持っていた「物語性」を分離していったことなどがある。

先ほど、悪質なパチンコ店で絶対に店舗側が最終的には儲かるように出玉調整が行われているような感覚だと話したが、それは「プレイヤーのゲームへのモチベーションをいかに刺激し、高め、維持していくか」という「ゲーミフィケーション」と呼ばれる手法によって実現される。

Richard Bartleによると、ゲームプレイヤーはアチーバー/Achivers(ゲームのミッションをクリアすることを目的とするタイプ)、エクスプローラー/Explorers(ゲーム内を探索し、好奇心を満たすことを目的とするタイプ)、ソーシャライザー/Socializers(ゲーム内で生まれるコミュニケーションを楽しむタイプ)、キラー/Killers(ほかのプレイヤーとの対戦などを通じて勝ち上がっていくことを目的とするタイプ)の4種類に分類されるが、それぞれのタイプのプレイヤーの欲求を満たすことがソーシャルゲームに求められていることである。
http://www.chickgeekgames.com/2011/01/know-how-healthy-player-base-ecology-or.html より
従来のゲームにおいて、プレイヤーの興味を引きつけ、プレイ開始後も完了まで遊び続けてもらうようにゲームを制作するのはかなり難しいことであり、ゲームクリエイターの能力に依存するところが多かった。しかし、ソーシャルゲームではWebの手法を用い、リリース後にユーザーの行動を分析し、適宜ゲームを最適化していく。

今流行している「ビッグデータ」の有効活用であるが、一方で、それが故に事業者側に行き過ぎを防止するようなしっかりとした指針なり仕組みが必要である。

本書では、規制が入ると昨日報道されたコンプガチャを始め、現在のソーシャルゲームの社会的な問題も解説している。執筆時には、「ゲームの利用規約で禁止されているもので、違法性を持つものや国による規制が求められる要素というのは限られてくることがわかる」と書いており、コンプガチャが景表法の懸賞に当たるのではないかとの指摘は行われていない(ただし、筆者のFacebookなどのコメントを見ると、なんらかの情報は得ていたが、執筆時には明かせなかったように見受けられる)。

筆者は海外展開において、日本よりも規制の厳しい国が多いことをあげ、マネタイズをソーシャルゲーム本体と一体で考えないほうが良いのではないかと次のように指摘する。「ソーシャルゲームそのものと、マネタイズの手段であるアイテム課金やガチャシステムをワンセットで考えていいのか、という疑問がでてくる」。最終章である第5章「ゲームの未来」では昨年南相馬で行われた「福島Game Jam」を紹介し、ソーシャルゲームそのものの可能性を言及する。

結局、本書では、マネタイズとして健全な形は、では何かという疑問には答えられていない。しかし、これはそう簡単に出るものでもない。むしろ、これから考えなければいけないことであろう。特に、昨日以降、違法性があることが指摘された今であれば、なおさら。

なお、本書は、著者のまつもとさんから献本いただいた。まつもとさん、ありがとうございました。

2012年5月5日土曜日

TOEICのすゝめ

いまだにもがき苦しんでいる私の英語学習体験談でも書こうかと思っていたのだけれど、いつになるかわからないし、「TOEICはガラパゴス化した経産利権」というような記事も出てきていたので、まずはTOEICについて書きたいと思う。

この記事にもあるように、TOEICは世界ではほとんど認知されていない。日本と韓国が受験生の大半であることも知られている。米国の大学や大学院に行くにはTOEFLとGMATが必須だし、海外企業に就職するに際しても、TOEICのスコアを出しても理解されないことも多い。

だが、それでも私はTOEICを評価する。以下がその理由だ。
  1. 日韓に特化している。
    つまり、裏返せば、日本人と韓国人が間違えやすいところを重点的に突くようなテストになっている。したがって、TOEIC対策をすることによって、自然とそのような日本人が間違えやすい発音や文法などを正しく覚えることができる。
  2. 英語処理能力を高めることができる。
    TOEICを受験したことのある人は知っていると思うが、短時間で大量の問題をさばかなければいけない。リスニングで45分で100問、リーディングで75分で100問だ。リスニングは待ってくれないし、リーディングはじっくり考えている時間がない。そのため、TOEICでスコアを獲得するためのテクニックが存在する。それは、あらかじめ設問を読んでおくことであったり、選択肢問題では明らかに関係ない選択肢をすぐに候補から除外することなどである。実は、これは実務で必要とされる英語力と近い。たとえば、日常のメールのほとんどを英語でやりとりするようになったとする。あなたが大量のメールを日々交換しているとすると、その1通1通を丁寧に、時として辞書を引きながら、上から下までじっくりと読む時間はない。即座にスキャンし、そのメールの重要性を判断し、読むべきところはしっかりと、それ以外は飛ばしながら読むことをしなければいけない。TOEIC対策を通じての英語情報処理能力の向上はこのような実務において極めて有用だ。
  3. ベンチマークとして使える。
    TOEICで高スコアを取ったからと言って、英語力があるとは限らないが、(実践的な)ある程度の英語力を知ることができるのは事実だ。英語をあまり勉強してこなかった人にとっては、動機づけとしては極めて有効であり、また実際に勉強の成果を測るテストとしては意味がある。手軽に定期的に受験できることも大きい。また、その良し悪しはともかくとして、日本に定着しているため、日本において自分のTOEICスコアを把握していることは意味がある。

英語に限らず、非母国語(非母語)学習における動機づけは学習を継続するためにも重要である。TOEICのようなベンチマークとなる試験の存在だけが動機のすべてではないが、重要な役割を占めるのも事実である。非母語を学習するための動機づけには、統合的動機づけと道具的動機づけに分類される(詳しくは「外国語学習の科学」を参照)。

統合的動機づけとは、その言語を通じて、それを母語とする外国の文化を学びたいとか、それを母語とする人たちと交流を図りたいといった動機づけである。

一方、道具的動機づけとは、その言語力を高めることによって、希望する学校や企業への入学や就職が可能になるとか、資格手当が得られたり、昇進に有利になるなどの経済的な利益が期待できる場合などである。

いずれにしろ、動機がないと、学習は継続しない。TOEICを学ぼうとする人にとって、後者の道具的動機付けとの関連が強くなると思われるが、学習者にとって、それは決して悪いことではない。

TOFEFLのスコアやほかの手段で自分の英語力を示せる人はそうすれば良いし、英語学習における動機づけとして、TOEICが必要のない人は、TOEICに頼らなくても良いだろう。だが、日本において、これだけ認知が高く、試験としてはそんなには悪くない試験があるのだから、それを利用しない手はないと思う。「ガラパゴス、でもやっぱりTOEIC - Togetter」にも書かれているように、ぐだぐだ言っている前に、ガラパゴスと言われようがなんと言われようが、TOEICで高スコアを出して、それから批判すれば良いだろう。試験として、リスニングとリーディングのみで、アウトプットが足りないという指摘はそのとおりだが、それはほかで補完すれば良い。これについては別途日を改めて考えを述べてみたい。

TOEIC対策としては、まず試験形式を把握し、問題の傾向を知るためにも、公式本にあたるのが良いと思う。

TOEICテスト新公式問題集〈Vol.4〉
TOEICテスト新公式問題集〈Vol.4〉

どのレベルの人であっても出される問題と形式は一緒だ。初めての人であっても、何度か受験している人であっても、本番に近いものに触れておくのは大事だ。

ほかに参考になった書籍などを下にあげておく。

新TOEICテスト 直前の技術—スコアが上がりやすい順に学ぶ
新TOEICテスト 直前の技術—スコアが上がりやすい順に学ぶ

著者の1人のロバート・ヒルキさんの教え方が実に分かりやすい。かなり昔に、アルクでのセミナーが公開されていたことがあったように記憶するが、それも大変わかり易かった。いわゆるTOEICのスコア向上テクニックを解説している本ではあるが、上で述べたように、多くのそれは英語情報処理能力の向上にも役立つものなので、無駄ではない。「11日間即効プログラム」と言うだけのことはある。

TOEIC Test 「正解」が見える【増補改訂第2版】
TOEIC Test 「正解」が見える【増補改訂第2版】

韓国でカリスマ講師と言われているらしい著者の、こちらもいわゆる対策本。私は改訂前のしか読んでいないのだが、大変参考になった。時間配分なども指示されていて、それを頭に入れておけば、本番で時間に追われてパニックになることはない。

TOEIC TEST文法完全攻略―必須単語も同時に身につく (アスカカルチャー)
TOEIC TEST文法完全攻略―必須単語も同時に身につく (アスカカルチャー)

1998年の発売と古いが、文法についてはこの書籍だけで私は勉強した。今回、このブログを書くにあたって、改訂版が出ていないか探してみたのだが、出ていない模様。おそらく、今でも通用するロングセラーなのだろう。

新TOEIC(R)テスト900点 新TOEFL(R)テスト100点への王道
新TOEIC(R)テスト900点 新TOEFL(R)テスト100点への王道

杉村太郎さんというと、私と同世代の人はサラリーマンでありながら芸能活動をするユニット「シャインズ」として記憶に残っているかもしれない。私はこの本の改定前の旧版を読んだのだが、そこでシャインズ後の彼を知った。今回、改めて、このブログを書くにあたって調べてみたら、なんと昨年がんで亡くなっていた。お会いしたことはないが、強烈な個性の持ち主だったように見受けられ、英語学習や留学支援においても実績をあげていただけに残念だ。ご冥福をお祈りしたい。

さて、本書はそこで述べられている具体的なテクニックもさることながら、非科学的ではないかと思われる精神論的なものまで含めて、動機づけや動機を維持するためにも、大変参考になる。Amazonのカスタマーレビューでは評価が低いが、その理由は改訂版と旧版に違いがほとんど見られないことによる不満によるものだ。読み物としても面白いので、もしどれか1冊と言われたら、この本を最初の1冊としてお勧めする。


英単語関係の書籍が無いのだが、あまり単語だけの学習は行わなかった。いや、書籍も何冊か買ったのだが、どれもそんなに大差なく、効果があったかどうかは不明だ。所持していた電子辞書にTOEIC頻出英単語が載っていたので、通勤時などにそれをたまにやるくらいだったかと思う。

以上、TOEICをなぜ勧めるかの理由と参考図書の紹介だ。

そう書いているお前の英語力はどうなんだと聞かれると恥ずかしいのだが、冒頭に書いたように、外資系に勤めていながら恥ずかしいくらいの英語力しかない。外資系3社にいてクビにならない程度の英語力は持っているが、ぺらぺらには程遠い。日々努力。TOEICスコアはAスコアレベルというものは一応達成している。そろそろもう一度受験してみようかと思っている。次は満点を狙いたい(まず無理そうだけど)。

あ、そうだ。満点を狙いたいって言ったら、アルクに勤務している友人がこれを勧めてくれた。まだ買ってもいないけど orz

新TOEICテストBEYOND990超上級問題+プロの極意
新TOEICテストBEYOND990超上級問題+プロの極意

その常識もしかして非常識?! 自分を魅せる本当のマナー

  

著者の矢島里佳さんとは数年前に知り合った。Googleで「及川卓也」でウェブ検索すると、イメージ検索(画像検索)の結果も挿入されるが、そこで2ショットで私と一緒に写っているうら若き女性だ ;-) 私が鼻の下を延ばすしているように見えて格好悪いので、どうにかして、検索結果から削除したかったのだが、無理だった。

というのは置いておいて。

知り合ったのは数年前だ。関西で私が行ったある講演会に参加されていて、そこでAO入試対策本である「やばい!戦略的AO入試マニュアル 」を書いた著者だと紹介された。面白そうだったので、その場で購入し、帰りの新幹線で一気に読んだ。そのときのレビューがこれだ。(ちなみに、件の写真はそのときのものだ)

改めて読んでみたのだが、べた褒めだ。若い女の子だからおべっかを使ったというわけではなく、本当に当時、その内容の厚さにびっくりしたのだ。

今日、これを書くために、改めてAmazonのカスタマーレビューを見てみたら、評価が真っ二つに分かれている。9件のレビューがあって、星5つが5個、星1つが4個。結果、平均が星3つ。恐らく、あの本から何を求めるか、読者側の期待やその環境によって評価が分かれるのかもしれないが、このように極端に評価されるのも、矢島さんらしいなと思う。

さて、この「その常識もしかして非常識?! 自分を魅せる本当のマナー」だが、いわゆるマナー読本だ。コミックにしたてているため、読みやすいというのもあるが、あえて網羅性を求めずに、著者である矢島さんが自信の興味で選んだ事例をとりあげているのが良い。杓子定規に囚われずに、日常の身の回りで必要となることを解説している。

私は「体にご自愛ください」が間違いだなんて知らなかったし、寿司を食べるときに、垂れてきそうな醤油を防ぐために小皿を使うなんて考えもしなかった。

さらには、マナーの背景にある、ホスタピリティの考えを、それぞれのマナーを伝えながらも解説している点も気持ち良い。形だけではなく、結局は心だと、矢島さんは伝えてくれている。

矢島さんとはしばらくお会いしていなかったが、先月、彼女の会社「和える」の一周年記念に呼んでいただき、久しぶりにお会いすることができた。この「和える」という会社、日本の伝統を子どもに受け継ぎ、世界に発信することを目指している。このことは、矢島さんが私と知り合ったときから言われていることだ。ぶれなく、夢に向かって進んでいる彼女を応援したい。

本書は一年も前に頂いていながら、やっと今になって読んだ。遅くなって、ごめんなさい。献本ありがとうございます。

2012年5月4日金曜日

ブラック企業、世にはばかる



かなり前に献本いただきながら、放置してしまっていた。改めて読んでみて、その内容に頷くところが多いことに気づく。

Amazonのカスタマーレビューではあまり評価が高くないようだが、その理由はタイトルと内容に違いがあるところに依るところが多いようだ。この本で筆者はブラック企業(中ではブラック職場との呼び方で統一される)が存在する理由を日本経済そもそもの構造にあると指摘し、その上でどのように解決できるかを提案する。

本書でブラック職場と呼ばれるものは、法的に問題のある活動をしているものは除外されている。つまり、日本経済を支える上で重要な役割を果たしていながら、そこで働く従業員にとってはブラック、すなわち、さまざまな条件において理想とされるものに程遠いような職場を指している。

その上で、このようなブラック職場を生み出しているのは、その職場だけに問題があるのではなく、むしろ、そのような構造を生み出している発注者であったり、元請けであったり、最終的には消費する一般消費者であると指摘している。

ついこの間、深夜バスの不幸な事故が発生したが、それに対して藤野さんが次のような指摘をしている。
デフレ経済に対応をするためには、消費者に対する価格を下げるための企業努力が必要になります。それは「消費者がのぞんでいるから」です。生産者や販売者は売値を安くしたい動機はあまりありません。売値を下げるのは厳しい経営努力が必要になるからです。売値を下げるには、相当なビジネスモデルの工夫が必要ですし、原価を下げるか、従業員やアルバイトに長時間労働をお願いするか、賃金を引き下げるか、従業員の数を減らすしかないわけです。

高速バス事故の事故の責任は、あなたにも私にもあるかもしれない。ブラック企業を生み出す「ブラック消費者」という問題  | ふっしーのトキドキ投資旬報 | 現代ビジネス [講談社]
ここでは「ブラック消費者」と一般消費者にも責任の一端があると指摘しているが、本書においても、同様の理由により、ブラック職場が無くならない理由を日本経済そして日本社会全体の責任であるとする。

前半の第一部では、ブラック職場をそのタイプにより3種類に分類する。

深夜残業や休日出勤も当たり前の「肉食系」。新卒を大量に採用し、過半数が辞めていくことも構わないような確信犯的な職場。もう1つが勤務は厳しくは無いが、賃金は高くなく、自身の成長が見込めないような簡単な業務しかない「草食系」。最後が一般にはブラックと思われないような、大手人気企業だけれども激務であり、時給換算するとマックやコンビニ以下(本書内で、これは誤解であることが示されるが)の「グレーカラー系」。

それぞれの職場の特徴となぜブラックから抜け出せないかを示した上で、後半の第二部でその解決策を示す。

筆者は、ブラック職場が存在する理由を、日本の従来からの伝統的な雇用システムにあると指摘する。年功序列と終身雇用。ありきたりの結論と思われるかもしれないが、筆者の説明は明解かつ説得力がある。

まず、新卒採用中心主義を改めるように提案している。日本で生まれ育った場合、学歴形成から社会に出るまでには、実は何度か再チャレンジのチャンスがある。中学入試で失敗しても、高校入試があるし、そこで失敗しても大学入試がある。大学院に行く場合には、そこでも再度挑戦できるし、社会人になる際にも再度の挑戦ができる。もちろん、後半になればなるほど、挑戦できる範囲は狭くなったり、難易度は上がったりする。だが、それでも挑戦できる可能性はあるし、回数も確保されている。それが、社会人になるという段階においては、まさに1回のみの挑戦となる。一度、職場選びを間違ってしまうと、その失敗を取り返すことが不可能だ。筆者は、この問題の解決策として、1) 若年者採用中心主義と 2) 中途採用中心主義にすることを提案する。

もちろん、机上の空論となりかねないことを筆者も知っているため、まずは 1) の若年者採用中心主義を勧める。これはこれで難しいが、実際に日本で出来ている団体があり、それを模倣してはと言う。それは公務員だ。筆記試験というハードルを課すことにより、20代後半までの比較的幅のある範囲で募集をかける。一般企業も就職浪人や第二新卒まで含めて、採用を検討してはどうだろうか。採用にかける手間を軽減するために、資格試験などを利用することも可能だと言う。

2) の中途採用中心主義に関しては、雇用の流動化やさらには解雇規制の緩和を言う。これに関しては日本に馴染まないという声も多いだろうが、私も同意する。日本社会全体で見た場合に、優秀な人材を適材適所に配置できないことが日本の成長を著しく阻害し、競争力を削ぐことになる。本書でも書かれているように、日本にさまざまな事情があることは承知している。年功序列と終身雇用に最適化された職場において、中途を採用することや解雇を積極的に行うことなどは、激しい軋轢を生み、また痛みも伴う。だが、ブラック職場の存在を知りながら、見て見ぬ振りをしないためにも、さらには激しい勢いで変化する社会構造に対応するためにも、戦後積み上げてきたシステムそのものの見直しをしないといけないのではないだろうか。

筆者は中途採用が進まない理由の1つとして、年齢に対するこだわりがあるのではないかと指摘する。つまり、年上部下と年下上司の関係に代表される、職場における年齢のダイバーシティの問題である。日本においては、年齢が社会的な地位と密接に結びついていることもあり、年齢がその職場の年功序列モデルの中に収まらない人を採用することが難しい。筆者はさまざまな実例もあげながらその課題を解説しているが、1つ重要な視点でこの問題に対する提案をしている。

年齢差があっても気心が知れるような人は次のような人だと言う。
生物学的年齢にかかわらず好奇心やチャレンジスピリットにあふれ、雑用などもいとわないフットワークの軽さを持ち、謙虚で、決して『最近の若いものは』的な発言をせず、さらに自分の過去の(成功)体験をひけらかさず、またそれにとらわれないといった行動特性を持つ人が、年を感じさせない(若々しくみえる)のではないだろうか。
さらには、こうした考えを「心のアンチエイジング」と呼び、中高年がこの心のアンチエイジングに努めれば、年齢のダイバーシティを実現する職場環境が実現できると言う。

簡単だとは思わないが、雇用対策法における年齢制限をかけた募集が禁じられているのが、掛け声倒れに終わっていることを考えると、このような根本的な職場における年齢のダイバーシティを実現することを進めないといけないであろう。

特に、この後半の第二部に共感する部分も多く、ちょっと前の書籍ではあるが、お勧めしたい。

光文社様、献本ありがとうございました。


関連記事:




2012年5月1日火曜日

内部被曝の真実





本書の帯にも書かれている「7万人が自宅を離れてさまよっているときに、国会は一体、何をやっているのですか!」という国会での発表でも知られる東京大学の児玉教授の本。その国会の直後に、その発表をテキスト化したものを中心としてまとめられ、発行されたものなので、少し古い(第一刷発行が昨年の9月)。

主張はすでに知られているものだろう。「エビデンス」中心の臨床主義の限界を元に、閾値の議論に時間を使ったり、低線量の危険性/安全性の証明に時間を使うよりも、まずは測定と除染を進めるべきだというものだ。確かに、ある疾病において、それの原因と疑われるものとの因果関係を証明するのは簡単ではない。本書でも次のように書かれている。
被爆者の健康被害研究に携わってきた長瀧医師は、「国際機関で、“因果関係があると結論するにはデータが不十分である”という表現は、科学的には放射線に起因するとは認められないということである。ただし科学的に認められないということは、あくまで認められないということで、起因しないと結論しているわけではない」と指摘する。
怪しげなエセ科学に騙されてはいけないが、一方で国や専門家が「認められていない」という言葉を脳内で「安全である」と勝手に翻訳してもいけない。

筆者の発言は概ね支持されているようだが、本来の専門外への発表だったためか、批判もいくつか見られる。Amazonでのレビューコメントで低い評価をつけているものも(こういっては失礼だが)読んで面白い。

さて、私としては、本書でメインで語られている被爆のことよりも、むしろ、筆者が述べる「逆システム学」に興味を持った。逆システム学はその名の書籍が筆者と経済学者の金子勝氏との共著で出されている。

逆システム学―市場と生命のしくみを解き明かす (岩波新書)

こちらの書籍を読んでいないので、本書からの推測になるが、単一のエビデンスからの統計的な予測ではなく、複雑な系を多重フィードバックを司るものとして捉え、そこでの振る舞いを推測することを言っているようである。本書の中にもそれを思わせる記述がある。
予測の科学には、レトロスペクティブな予測とプロスペクティブな予測があります。レトロスペクティブな予測とは、いわゆる統計学とか疫学的な予測です。プロスペクティブな予測とは、コンピュータを使ったシミュレーションなどです。 
統計学や疫学は、過去の大量のデータをまとめて、新しいメカニズムを探すときに使われます。これに対して、今知られているメカニズムで未来を予測するときには、少ないパラメータで厳密に計算をしないといけない。これがシミュレーションの科学で、今はこの領域がものすごく進歩してきています。
まさに、本来即座に公開可能であったSPEEDIのデータはプロスペクティブな予測だった。プロスペクティブな予測の価値を見いだせなかったのは、震災後いくつもの場面で見られているのかもしれない。