2010年9月30日木曜日

いつもと同じという変化 - Keith Jarrett / Gary Peacock / Jack Dejohnette Concert

最初にKeith Jarrettを聴いたのは高校のころ。もう30年近く経ったことになる。貧乏高校生の私はもちろんレコードでしか聴くことが出来なかった。大学生になったころ、KeithはChick Koreaと一緒にモーツアルトを弾いていて、確かこれが彼のライブを見た最初だったろう。バイト代でチケットを買ったのか、友人が買ってくれたのか覚えていない。そういえば、彼は一緒にコンサートに行った彼は元気だろうか。

その後、ソロもトリオも何度も聴く機会に恵まれ、いつしか多いときは毎年、そうでなくても数年に1回は彼のピアノを聴くのが恒例となっていた。このブログでも2008年のソロコンサートの感想を書いてある。ソロとトリオを交互にやって、それで毎年来日していたのはいつのころの話だっけ。

今回の演奏は果てしなく優しく、そして繊細で、いつも聴いていた彼のピアノがいつもと同じように流れてくるものだった。おそらく本当はもっと激しい彼もいた。だけど、今そこで弾いている彼の姿から出てくる音はあらかじめ決められていた彼の音。約束された世界。

年齢による衰えもあってそうなってしまっているのかもしれなくて、それはそれで悲しいことだけれど、そんなことは誰も気にしないほど、美しく、そして楽しい演奏だった。

ジャズで様式美っていうのは変なことだと思う。特に、弾く曲もその日その時に決めると言われているKeithに対しては失礼なことかもしれない。だけど、今回の演奏はすべてアンコール最後のOnce Upon A Timeにつながるために予定されていたもの。そう思わせるくらい完成された演奏だった。

うつむきながら静かに歩きそしてピアノの前に。客席の緊張。挨拶の際に柔軟体操かと思うくらいに前にだらんと垂らす手。祈るように、そして自分に言い聞かせるように、胸の前で合わせる掌。あぁ、すべてのしぐさが決められたもののよう。

今回が最後のトリオの演奏だという話もあるようだが、大丈夫。いつでもあなたに逢える気がする。

セットリスト / 9月29日 Bunkamuraオーチャードホール
1st
  • Broadway Blues
  • The Blessing
  • I Fall In Love Too Easily
  • Tonight
  • Some Day My Prince Will Come
2nd
  • Things Ain't What They Used To Be
  • You Won't Forget Me
  • G-Blues
  • Smoke Gets In Your Eyes
encore
  • Straight, No Chaser
  • Once Upon A Time

2010年9月20日月曜日

難治がんと闘う -大阪府立成人病センターの五十年

昨年、NHKで放送された「立花隆 思索ドキュメント がん 生と死の謎に挑む」を見た。この中で立花隆氏は「転移がんには抗癌剤はほとんど効かない。QOL (Quality of Life) を大きく下げてまで延命したいと思わない」と言う。

その後、ひょうんなことから「現在のガン治療の功罪~抗ガン剤治療と免疫治療」というブログを知る。このブログのオーナーの梅澤充医師は「間違いだらけの抗ガン剤治療―極少量の抗ガン剤と免疫力で長生きできる。」という書籍の著者でもあり、抗癌剤に否定的で知られている。氏の主張には賛否両論あるようであるが、立花隆氏の番組での独白と梅澤医師のブログでの主張には同意できる部分も多い。すなわち、5年生存率という数字が一人歩きしていないか。果たして、それにより失うものは何か。また、5年を経過したあとの患者の生はどうなるのか。

この「難治がんと闘う―大阪府立成人病センターの五十年」では、大阪府立成人病センターの50年以上のがん対策の取り組みが紹介されている。がんの中でも難治がんと言われる一昔前には不治の病と言われていたがんも今では早期発見されれば治癒も期待出来るようになった。内視鏡治療、放射線治療、外科的手術、抗癌剤などを組み合わせ、さらには遺伝子を解析することによるオーダーメイド治療まで。

中でも、総合的ながん対策には統計的なデータが必要であるということで行っている地域がん登録事業は興味深かった。大阪府においてどのような種類のがん患者が多いのかを過去にさかのぼって知ることが出来、さらには治療後にそのがん患者がどのように生活しているか、もしくは不幸にも死に至ったかを知ることが出来る。たとえば、これにより胃がんの5年生存率があがったのは、必ずしも治療が進歩したり、早期発見が進んだというだけではなく、そもそも胃がん患者が減ってきたということがわかる。

医師たちの患者を救いたいという思いが詰まった書籍ではあるが、それでも、5年生存率という数字が出るたびに、5年生存率があがったというその薬は、その治療法は、では5年生存率をいくらあげたのだろうか、その患者は何年延命したのだろうか、それにより失われたであろうQOLに見合うだけのものだったのだろうか、と思い巡らせてしまう。

どんなでも生きていたい、生きていてい欲しいという気持ちはあり、それは最大限に尊重する。だが、どのような生を全うしたいかというのは、人間すべてに与えられた権利であるはずだ。がんになったときに、きちんとその判断を行うことが出来るような情報と環境を提供することが家族や医療機関に求められることだろう。