2009年11月15日日曜日

ニコニコ動画が未来をつくる ドワンゴ物語

著者の佐々木俊尚さんからの贈呈。佐々木さん、いつもありがとうございます。

ニコニコ動画が未来をつくる ドワンゴ物語 (アスキー新書)

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今ならニコニコ動画、昔は着メロで有名なドワンゴのドキュメンタリ。知っている人が何名か出てくることもあって、ぐいぐいと引き込まれるように読んでしまった。ドワンゴ物語となっているが、MS-DOSからWindows、そしてインターネット、携帯サービスへと広がってきた業界の縮図がドワンゴの歴史に重ね合わせるように紹介されている。私くらいの年齢の人にはその歴史が、また最近のドワンゴを知っている人には今のドワンゴからは想像も出来ないかもしれない彼らの成り立ちがわかる。その両方がわかる人は2倍おいしい本と言えるかもしれない。

ただ、正直、私くらいの年齢の人で業界の歴史的なところまではわかるだけの人が後半の携帯サービスやニコニコ動画の今の仕組みが生み出されるまでの話のところをどの程度理解できるかは不安だ。本の中でドワンゴの人が語っているとおり、サービスが生み出された当時でさえ、作り手とユーザーの間にゼネレーションギャップが生じており、ドワンゴは意識して若い人を雇うことさえしていたほどだ。ニコニコ動画を知らないと、この本の後半を理解するのは難しいだろう。本の中で、事細かにニコニコ動画のサービスを解説していることはない。

だが、それで良いのではないかと思う。本の中に書かれている吉本興行社長が語るように、触ってみればその魅力がわかってくる。吉本の社長大崎氏は、心斎橋筋2丁目劇場で客席の女の子の表情から読み取れたのと同じような客の対応がニコニコ動画のコメントからわかるという。このように貪欲に自分から新しいメディアやサービスの真価を把握しようと努める人だけが生き残っていくだろう。そもそも、ニコニコ動画をわかろうともしない人は、このベタなタイトルの本を買うことさえないのだから。

この本はもう1つ重要なことを伝えている。それはコンテンツの権利問題の複雑化だ。ニコニコ動画に上げられているMADと言われているような作品は作り手とユーザーという簡単な構造では語れない。ある人が音を作り、ある人が動画を作り、ある人はそれにクールなタイトルを付ける。それをさらに別の人が別の作品のモチーフとして使う。場合によっては、これで「振り出しに戻り」、再度作品の生成過程が始まる。これはJASRACのようなモデルでも、Creative Commonsのようなモデルでも対応できない。

しかし、これは本来の人間が行っていた作品を作り上げる際の工程だ。

私はジャズが好きだが、マイルスディビスもジョンコルトレーンも、みな偉大な先人をパクッてきた。さらに、自分もパクられることを良しとしていた。パクリというと不必要にネガティブなトーンがあるので、”Inspired by"と言っても良い。ただ、権利関係で言った場合には、大きな違いはない。ある楽曲のアドリブ(インプロビゼーション)に別の曲のフレーズを入れることなどは良くあることだし、セッションの開始が有名な曲のテーマであることも多い。さらには、そうして作られた/演奏された曲からさらにInspireされて生成される曲もある。ニコニコ動画で起きていることと同じだ。

著作権という枠組みが出来たことにより、アーティストやミュージシャン、小説家などの権利が守られ、文化が発展したという側面は否定しないものの、ネットを利用することにより原点回帰した複雑な著作の考えをスケールするモデルを考える時期に来ている。ニコニコ動画はそれを象徴し、我々に考える機会を与えてくれている。

<蛇足>
ニコニコ動画を知りたい人はまずは使ってみると良いし、ニコニコ大大会に一度は行ってみると良い。

ニコニコ大会議2008