2009年10月5日月曜日

森絵都を四冊

7月に読んだ「つきのふね」と「カラフル」はどちらも児童小説でありながら、年齢関係なくすべての人に訴えるものがあった。

そんな森絵都さんの小説を4冊ほど続けざまに読んだ。

まず、「風に舞いあがるビニールシート」。読もうと思って、だいぶ前に買ったまま放置してしまっていたものだ。放置してしまっていたのは、ほかにやるべき事や読みたいものがあったというのが主な理由なのだが、同時にこの本の出だしがどうも好きになれなかったからだ。

実は、出だしが気に入らず、手元にあったにも関わらず読み進めていなかったのは、「カラフル」も一緒だった。どちらも少し軽いノリがする。その軽いノリがどうにも読む気を損なわせていたのだ。

「カラフル」を読み終わった時には、そんな食わず嫌いであったことを後悔したが、この「風に舞いあがるビニールシート」も同じく、出だしのちょっとした文体や文調だけで判断してしまってはいけないことを教えてくれた。

これは6つの作品から構成される短編集。冒頭の「器を探して」は才能溢れる菓子作りの先生に仕える女性が主人公の話。理屈ではなく心を揺さぶられるものに価値をおく。静かに進む物語の中にもそのような力強い主人公の気持ちが伝わる。性を感じさせる部分も作品を際立たせる。

最後に収められている表題作「風に舞いあがるビニールシート」は秀逸だ。思わず人目も気にせずに涙してしまった。「つきのふね」と「カラフル」でも涙しているから、森さんの作品で涙するのはこれで3作目だ。性的なエピソードが混ぜられるが、セクシーな感じはほとんどしない。むしろ、それは悲惨な国際紛争地帯との対比もしくはそれを緩和させるためのコミカルな素材として配置されているようだ。これはドラマになったようだが、確かに後半の展開は思いっきりドラマチックだ。筆者のテクニックにまんまとはまったというような気もしなくも無いが、それでも悪い気はしない。

風に舞いあがるビニールシート (文春文庫)

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次は、「アーモンド入りチョコレートのワルツ」。これはピアノ曲をモチーフにした3作品からなる短編集。最初の作品「子供は眠る」はロベルト・シューマン「子供の情景」を、2番目の作品「彼女のアリア」はJ.S.バッハの「ゴルドベルグ変奏曲」を、そして最後の「アーモンド入りチョコレートのワルツ」はエリック・サティの「童話音楽の献立表(メニュー)」をモチーフとしている。自分じゃほとんど弾けないくせに、ピアノが好きな私はこれらの作品を読むときも凝って、そのピアノ曲をちゃんと聴きながら読んでみた。

2番目の「彼女のアリア」のモチーフになっている「ゴルドベルグ変奏曲」は不眠症のために作られたという逸話のある曲なのだが、今年3月に、実際にこれを聴きながら寝てみようという変わったコンサートを聴きに行ったことを思い出した。Twitter経由で招待していただいたのだが、その名も「音楽で快眠サプリ~ゴルトベルクでおやすみなさい~」。しかも会場が、シートが航空機のビジネスクラスくらいまでリクライニングで倒せるという白寿ホールだ。誘ってくださった方が「寝に来てください」とおっしゃってくれていたので、寝る気満々で伺って、本当に熟睡してしまったというコンサートだ。

話がずれたが、この曲をモチーフに使った「彼女のアリア」は不眠症という病気は出ては来るものの、それよりも「青春」という言葉が似合う中学生の恋の話。3作品の中では、これが一番好きだった。

アーモンド入りチョコレートのワルツ (角川文庫)

次に読んだのは、「リズム」とその続編になる「ゴールド・フィッシュ」。児童文学のなんかの賞をとったことで有名だし、「リズム」は著者のデビュー作。周りで評判が良かったので、期待して読んだのだが、どうも底が浅い感じがする。ストーリーに深みが無い。テーマ自身は嫌いではないのだが、安直な少女コミックのようにストーリーが展開していく。「つきのふね」や「カラフル」も「風に舞いあがるビニールシート」に比べると深みは無いのだが、ストーリーの展開にもっと工夫があり、それこそ「リズム」があった。この2つの作品も悪くは無いけど、少なくとも私の中に残るものはほとんどない。

リズム (角川文庫) ゴールド・フィッシュ (角川文庫)