2008年10月28日火曜日

ウィキペディアで何が起こっているのか 変わり始めるソーシャルメディア信仰

ウィキペディア(Wikipedia)はもちろん自分では良く使っている。何か調べ物をするときにも、使うサイトの1つだし、自分のブログの中で参照したりもする。

ただ、自分が詳しい領域の記事については不正確な内容が掲載されていることなども目にすることも多く、世で言われているウィキペディアの限界のようなものも感じていた。

ウィキペディアで何が起こっているのか 変わり始めるソーシャルメディア信仰」ではそんなウィキペディアの仕組みから運営方針、日米の違い、それらによって生じる数々の問題などが解説されている。いくつかのブログなどで、日本のウィキペディアの運営は米国のそれと違うというようなことも書かれていたのだが、本書でその意味が良くわかった。また、厳密に解釈すると、ウィキペディアの記述を引用したり、さらには当然編集に協力した場合、法的な責任も保持することなるそうだ。これは極端な例であるが、「みんなが一緒に作っている辞書」なので、責任所在も「みんな」になる。

本書の中では、同じように集合知の基盤として日本でも認知されている2ちゃんねるとの比較が行われる。筆者らは、2ちゃんねるのほうが実は運営はしっかりしているし、日本の法律に則った対応は行ってくれると言う。2ちゃんねるは2ちゃんねるでその管理人を含め、課題はあると思うが、日本の法律において責任を求めることのできる存在が日本にあるかどうかという観点からだけ見ても、ある意味正当な主張だ(ウィキペディアの場合は米国ウィキペディア財団が主体者となる)。

私の場合は、これを読んだからと言って、ウィキペディアの利用を止めようと思うことはない。むしろ、アカウントをきちんと取得して、編集に参加させてもらったりした。ただ、書かれているような課題やリスクがあることを認識しておくことは大事かと思う。

あと、中で取り上げられている日本語版ウィキペディアの編集にかかわる事件のいくつかは参考になる。

極めて第三者的に無責任に言わせてもらえれば、「リーダーのいない」組織がどこまで機能し続けられるかは興味あるところだ。

ウィキペディアで何が起こっているのか 変わり始めるソーシャルメディア信仰
山本 まさき

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2008年10月26日日曜日

仕事は5年でやめなさい。

1ヶ月ちょっと前になるだろうか。六本木のレストランで知人と食事をしていたら、親しくしているその店のマネージャがちょっと紹介したい人がいるんですと言って、隣で食事をしていた人を紹介してくれた。それが松田公太氏だ。

そのときはお互いに知人を連れていたので、ほとんど話が出来なかったのだが、物腰や立ち振る舞いからだけでも生き様(古いし、臭いかもしれないが、まさに生き様と言いたいので、あえてこのまま)が伝わってきた。熱いものがあった。

松田公太氏のことは以前から知っていた。タリーズの経営権を取得する際の交渉の話。さらには、米国に緑茶で進出した際のことは確かガイアの夜明けで見た(日経スペシャル ガイアの夜明けバックナンバー)。

氏は今、タリーズジャパンではなく、タリーズインターナショナルとしてさらなる市場開拓に挑んでいるようだが、このように常に全力で前進続けるその哲学が書かれているのが本書だ。

仕事は5年でやめなさい。

以下が目次。

1章 人生を切り拓く「目的」の見つけ方、「目標」の立て方
2章 おぼれながら「金のワラ」をつかめ 失敗は成功の引き金
3章 「凡」に目を光らせろ、些事を磨けば本物の力がつく
4章 コンプレックスを掘って宝を出せ マイナー意識が道を拓く
5章 自分を伸ばし、人を育てる ノーファン・ノーゲインの心意気

1章で氏は、時間軸を切って、未来自分史を作ることが大事だと言う。タイトルにもある5年というのは、5年を単位として考えて、5年後に辞めて次のステップに進めるようにしようという話だ。人生を何年と考えるかは人それぞれだが、たとえば50歳で人生を全うすると考えた場合(氏は家族の死などからそのように考えている)、20代前半からだと5回くらいしか5年のサイクルは無い。1つ1つの5年サイクルを無駄に出来ない。

私のこのブログを読んでくれている人は何回か私が「私には残された時間が少ないから」という言い方をしているのを覚えているかもしれない。また、実際に会った人も、この私の口癖を聞いたことはあるだろう。私も自分の父親や親しくしていた知人などの死から、自分の寿命が55歳程度であったときのことを覚悟している(もちろん、55歳以上まで生きたいと考えているので、そこの人、心配しないように)。そう考えると、今の1年いや3ヶ月と言えども、とても大事だ。時間軸を決めて、進めるようにしないと。松田氏が言うように、「『やめる』と決めれば、成長は加速する」から。

仕事は5年でやめなさい。
松田 公太

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2008年10月22日水曜日

LOVERS―恋愛アンソロジー

LOVERS―恋愛アンソロジー (祥伝社文庫)
LOVERS―恋愛アンソロジー (祥伝社文庫)

このブログでも何回か書いているが、男のくせに女流作家が嫌いじゃない。しかも恋愛小説をたまに読みたくなったりする。出張の時など、ビジネス書や雑誌などと一緒に数冊、文庫本を買うことが多いが、その中の何冊かは女流作家の恋愛小説だ。

この本はそんな女流作家による短編恋愛小説集だ。収められているのは、江國香織、川上弘美、谷村志穂、安達千夏、島村洋子、下川花苗、倉本由布、横森理香、唯川恵の9名。平成15年に初版1刷で、平成19年に29刷なので、売れているのだろう。みんな恋愛に飢えているのだろうか。

失礼だが、このように1冊に短編がまとめられると、作家の力量が一目瞭然とわかる。いや、力量と言うのは、私の完全に個人的な観点からだが。

江國香織はやはり圧倒されるものがあるし、川上弘美も読ませる。文章で読ませると思わせたのはこの2人。谷村志穂はたぶん初めて読んだのではないかと思うが、悪くなかった。ちょっと軽いけど。

ほかはライトノベルというのだろうか。ちょっと自分には文体が合わない。しかも、なんかうそっぽい話が多い。小説なのだから、フィクションで良いのだが、中途半端なフィクションというか。

収穫は、これでどの作家の本が自分にはあっているかわかったことかな。

以下、作家と収録作品および寸評(ってほどのことは書いていないが)。酷評申し訳ない。

江國香織-ほんものの白い鳩
圧巻

川上弘美-横倒し厳禁
なかなか

谷村志穂-キャメルのコートを私に
登場人物が魅力的

安達千夏-ウェイト・オア・ノット
今ひとつ

島村洋子-七夕の春
ストーリーの勝利

下川花苗-聖セバスティアヌスの掌
今ひとつ

倉本由布-水の匣
もう一ひねり欲しい。コミックっぽい。

横森理香-旅猫
コミック向けかと

唯川恵-プラチナ・リング
まったく

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2008年10月21日火曜日

オンリーワンは創意である

オンリーワンは創意である (文春新書 653)

シャープ会長の町田氏の著作。

いわゆる「選択と集中」によって液晶事業を経営の柱としたシャープであるが、その話をはじめとして、日本の厳しい製造業の競争を生き残ってきたシャープの経営の秘訣が書かれている。

コスト競争に勝ち抜くために海外に生産拠点を移したり、そもそもファブレス化するような企業の多い中、シャープは生産技術こそ自社の生き残る道として、亀山工場を作る。「パラダイス鎖国 忘れられた大国・日本」で書かれている「国家が豊かさを追求するための方法の1つ」である「日本型の果てしなき生産性向上」を追求したものだろう。

町田氏は次のように言う。
「生産技術は現場で長年培った経験やコツ、ノウハウがものをいう世界」。生産技術はいわば「老舗のうなぎ屋の秘伝のたれ」みたいなものだ。自前でこつこつ積み上げていくものである。しかし、モノをつくらなければ生産技術は進化しない。

「秘伝のたれ」とは、具体的には製品を生産するための“レシピ”のことである。製品は、向上にある製造装置によって生産される。工場はアイデアの塊といってよく、製造装置の動かし方や道具の使い方、材料の扱い方など、生産現場独自のノウハウをもっている。それらすべてが調和してはじめて、生産効率と品質がうまくバランスし、歩留まりの良い製造が可能になってくる。

<中略>

せっかくつくりあげた「秘伝のたれ」は本来、「門外不出」だからこそ商売になるはずだ。安易な海外移転は、「秘伝のたれ」をやすやすと分け与えているようなものである。

亀山工場では、生産技術のブラックボックス化をおこなった。かねてより生産技術が海外流出していることに懸念を抱いていた私は、亀山工場を建設するにあたり、生産技術の「要」となる部分を、外からでは見えないようにした。
亀山工場のブラックボックス化は有名だろう。私もテレビの特集か何かで見たことがあるが、外部からは中の様子がまったくわからないように建設された工場だったように記憶している。

上でも触れたが、この本は「パラダイス鎖国 忘れられた大国・日本」とともに読むと良いかもしれない。日本企業の勝利の法則である、「公式1)数の多いほうが勝ち-すなわちシェアを抑えたものが有利」と「公式2)グローバルブランドの確立と維持-一度ブランディングに成功し、それを維持し続けられれば、価格競争に陥らずに済む」をいかに日本を代表するシャープが実現していたかが良くわかる。家電の中でのテレビの持つブランド力に目をつけ、いかにテレビ市場の中でシャープのシェアをあげたか、さらには液晶のブランドとして「AQUOS」のブランド力を高め、それをさらにほか商品に展開していく様子。まさに、従来の日本企業の勝利の法則の模範のような企業だ。

その「AQUOS」の名前を冠した携帯電話は日本最初のカラー液晶を搭載し、さらには同じくデジカメ搭載した日本発の携帯電話は「写メール」という言葉が携帯電話に付属のデジカメで撮影した写真を添付したメールの代名詞になるほどヒットした。

ただ、グローバル展開という意味では、シャープも他社同様、ここ数年は必ずしも成功していない。町田氏は、中国でAQUOSブランドが強いことや3G携帯が普及していくことを理由に、中国での事業展開に自信を見せているが、どうだろう。

垂直統合(「他社にはないオンリーワンのキーデバイスを開発し、それを自社の商品に組み込むことで、他社にないオンリーワンの商品をつくるやり方」)と技術の融合(「異分野で開発された技術をひとつに融合させ、新たな付加価値を創出するやり方」)の2つがうまく噛み合うことでオンリーワンの商品はうまれると町田氏は説く。海部氏が言う共同体の同意が得られない分野ではイノベーションがおきない日本の課題まで、この2つが噛み合うことで解決できるようだと、シャープの、または日本の製造業も明るいだろう。

ところで、4章で町田氏が社員に「I型人間」より「T型人間」になれと説いている話が書かれている。これは私が以前部下や若い人に話していたのと同じだ。
私は社員に向かっていつも、「多能工になれ」と言っている。そして、「I型人間でなく、T型人間になれ」と説いている。

自分の得意分野や、興味のあることだけを追求するのが「I型人間」だ。Iの文字がまっすぐ一本伸びているように。そうではなく、Tの文字が横に広がっているように、専門分野を極めるのはもちろんだが、それに加えて、幅広い知識やスキルが身についた「T型人間」になれということだ。
Tの縦棒を深く、そして太く出来た上で、さらに横棒も広く、そして太く出来たら、人間として怖いものはないだろう。まぁ、それが出来ないから、みんな苦労しているわけだが (^^;;;;

日本の勝ちパターンとそれを踏まえての将来戦略を知るにはうってつけの本。薄くてすぐ読めるのでお勧めだ。「すぐ読み終わっちゃった」と言って、本書を私にくれたA社のAさん、どうもありがとう。

オンリーワンは創意である (文春新書 653)
町田 勝彦

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2008年10月19日日曜日

こんな状況だからこそ

景気が悪化すると、出費を抑える。経費を削減する。

ごくごくまっとうなことなんだけれど、これって、ますます状況を悪化させる。

出張を取りやめたとすると、その出張で利用されるはずだった航空会社やホテル会社は入るはずだった収入を失う。小さいところだったら、これが重なるだけで、つぶれるだろう。

レイオフされた人は当然出費を抑える。そうなると、一般消費者向けにビジネスを行っている会社の収益も悪化する。

なので、あえて言ってみる。

こんな時期だからこそ、あえて経費削減しない。すぐにはつぶれそうにない会社はお金をどんどん使おう。それがぐるりと回って、あなたの会社にプラスに作用する。

って、株主には通用しないだろうなぁ。。。

松下幸之助発言集ベストセレクション〈第3巻〉景気よし不景気またよし (PHP文庫)

(注意: この本はそういう暴言を吐いている本ではない)

2008年10月16日木曜日

パラダイス鎖国 忘れられた大国・日本

読むだけ読んで、ここにレビューを書き忘れていた本がいくつかあって、やっとしこしこと書き始めているのだが、これもその1冊。

携帯電話に代表されるように、技術自身は極めて高度な進化を遂げたものの、世界市場で見た場合に、まるで地方都市の方言のように、閉じた空間でしか通用しないものを「ガラパゴス進化」と呼ぶ。私も最初のうち(1年半くらい前)はほかに使う人もいなかったし、「なるほど」と感心されたので、良くこのメタファーを使っていた。しかし、今や多くの人が使っていて、手垢がついた感は否めない。そのため、最近ではほとんど使っていない。いや、使わないようにしていると言ったほうが適切か。もし私が使っているところを見たり、聞いたりしたら、よほど手詰まりか、酔っ払っていると思って欲しい。弁解すると、日本人以外に説明するときには、日本の市場の特殊性を説明するのに楽(要は手詰まっている)なので、まだ使うことはある。

だが、もっと適切なコピーがあった。それが「パラダイス鎖国」だ。

パラダイス鎖国 忘れられた大国・日本 (アスキー新書 54)
海部 美知

世界規模の金融不安の今、韓国の例を出すのは適切ではないかもしれないが、いまや世界のトップメーカーとなった韓国のサムソンとLG。両社の強さの秘密はいくらでもあるが、日本の電機メーカーと違い、国内需要だけでは食っていけないので、必然的に世界に出なければならなかったこともその理由の1つだろう。以前、PC用のOSを作っていたときに、ずっと疑問だったのが、世界でPCから撤退するメーカーが多い中、日本では何故こんなにも多くの(当時は大手だけで7社あった)メーカーがPCを生産し続けるのだろうかということだ。しかも、世界で通用するブランドはせいぜい東芝とソニーだけだ。いくらGDPが世界2位とは言え、7社も食っていけるだけの内需があるのか。コモディティ化し、薄利多売になったPC、あのIBMでさえ撤退したPCに何故そんなにまでもしがみつき続けるのかがまったくわからなかった。今だから表立って言えることだが…

幸か不幸か米国に本社のある会社にずっと勤めていたために、漠然と感じていた日本市場や企業、さらには日本そのものへの違和感をこの本は明快に解説してくれている。新書のため、簡潔にまとまっているが、最初から最後まである種の報告書(レポート)のように論理的に、データの裏づけを示しながら、話は展開する。

まず、以前の日本はグローバル市場での2つ勝利の公式を確実に実践していた。
  • 公式1)数の多いほうが勝ち-すなわちシェアを抑えたものが有利ということ
  • 公式2)グローバルブランドの確立と維持-一度ブランディングに成功し、それを維持し続けられれば、価格競争に陥らずに済む
日本の国際競争力が落ちたのは、この2つの公式が通用しなくなったからだ。価格を抑えてシェアをとりに行くことができなくなるマーケットが増えた。またハードウェアではなくサービスの分野では日本のブランドは無いに等しかったし、また新たなブランドの確立も一筋縄ではいかなかった。それに加えて、貿易摩擦で痛い思いをした企業のトップの連中が不必要な摩擦の再発を自ら防いだことも内需に向かうことになった原因の1つだ。このほかにもいくつかの要因はあるが、それらが日本を引き篭もりへと向かわせる要因となった。

ただ、国際競争力が落ちたとは言っても、日本は安全で暮らしやすい、さらには世界2位のGDP国家であることは変わらない。このような日本の状況を筆者は次のようにまとめる。
  1. 世界2位の経済規模を持ち、その地位は現在でも安泰である。
  2. アメリカと同様に、国内市場がきわめて大きい。
  3. アメリカでの存在感は最近低下している。
  4. 日々の生活で実感できる「豊かさ」指標では、欧米の大国をしのぐ水準にある。
  5. 国民全員が享受できる基本的なもの以外では、整備や変化が進まない。
  6. 経済は90年代以降の停滞から完全に脱していない。
  7. 財政赤字、累積債務、政府部門の効率の悪さが際立った問題である。
楽しい引き篭もり(=パラダイス鎖国)の足元にはこのような国家の状況がある。

通常、国家が豊かさを追求するための戦略としては次のようなものがあると筆者は言う。
  1. 新興国の追いつけ追い越せ戦略(=徹底したコスト戦略によるシェア確保)
  2. 豊かな小国の一転豪華主義(=人口の少ない国が1つの産業に集中する戦略。金融に集中したアイスランドの今の状況から、はからずも、この戦略のリスクも見えてしまったが)
  3. おおらかな資源大国
  4. 日本型の果てしなき生産性向上
  5. 大国仲間、大きいがゆえの悩み(=本書では戦略パターンとして並べられているが、実際には戦略というよりも、「大国」という分類を紹介しているだけにすぎない)
  6. シリコンバレー型試行錯誤方式(=「なすがまま」に強い産業が復興するのを産業界自身にゆだねる。もちろんそのための土壌作りなどは行う)
これを踏まえた上で、今の日本がとれるのは、1) 「果てしなき生産性向上」2.0か2) 試行錯誤戦略だと言う。前者は、通常であれば、ここまで大きくなってしまい、コスト削減などをこれ以上に行える余裕はないはずであるが、日本であれば、さらに生産性を向上できるはずだという考えだ。後者はシリコンバレー的に新たな有望な産業に賭ける戦略だ。しかも、「なすがまま」もしくはトライアンドエラーの方式で。

筆者は後者を進めるために、シリコンバレーのもつ、「厳しいぬるま湯」環境(気軽にトライでき、成功した場合のおこぼれを狙うサポーターもすぐに集まり、失敗してもそれを厳しく責められることのないような環境)を日本にも導入することを勧める。日本では共同体の同意が得られない分野ではイノベーションを起こせない現実があるが、ネットを利用した意見のクラスター化によりそれも変えられるのではないかと言う。

本書の後半は以上のような日本への提言を踏まえた上での個人への提案がなされている。

私の中でもやもやとしていたものが、見事にまとめられている。

池田信夫氏も帯で書いているが、これは安易に土建型の国家プロジェクトでイノベーションが起こせるといまだに信じているお役人にまず読んでもらうのが良いだろう。

ちなみに、著者の海部さんとは前回の訪米時にお会いすることができた。今また米国出張中なのだが、多分今回もお会いできそう。いろいろお話させていただきたく。

パラダイス鎖国 忘れられた大国・日本 (アスキー新書 54)
海部 美知

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<追記>
新生まめたろう日記の海部美知「パラダイス鎖国」111 にも書かれているが、

常に最高級のものを買い続けるマニア的な層ってのも重要だから、最高技術にこだわるのも正しいのでは?と思ってたけど、問題はそれはニッチだということ。ニッチだっていう自覚のもとに、それなりの資源投入で小規模に作るのなら正しいけど、巨大メーカーが競争して膨大な資金をつぎこんで最高のものを作り続けるっていうのは、シェンムーと同じで(ごめん、古すぎて)結局はユーザー無視なのではないかと思う。
これはまったくこのとおりで、圧倒的なブランド力とそれを理解するあるボリュームのユーザーが必要だ。高価格でも高い品質で高機能という日本の強みがユーザーのニーズにマッチしなくなってきていて、さらにはそれを支えるブランド力も落ちてきてしまっている。単なる製造だけではなく、サービスとの連携が必要になってきていることが多く、そのサービスの部分においては、従来までの勝利の公式が通用しなくなってきているのだろう。

渋谷陽一ではないが、「良いものが売れるのではなく、売れるものが良いものだ」(出典不明)。

2008年10月14日火曜日

勝間和代のインディペンデントな生き方 実践ガイド

勝間さんの本は以前に「効率が10倍アップする新・知的生産術―自分をグーグル化する方法」を読んだことがあるのだが、それ以外の本は読む前からちょっとお腹いっぱいな感じがして、敬遠してしまっていた。あと、書店で立ち読みしただけでも、著作間で重なっている情報が多すぎる感じがした。

ただ、彼女には皮肉ではなく敬意を表する。ビジネス書としてどのような書籍が売れるかの分析をし、さらに自分が持つ商材をどのようなセグメントにどのようなタイミングでどのようなチャネルで売れば良いかをきちんと考えている。出版社の中には、この出版不況の中、「勝間本で行きましょう」という一言で企画が通ってしまうところもあると聞いたことがある。このような中で、自分の鮮度などを熟知した上で行動しているように思える。

で、この一冊。

勝間和代のインディペンデントな生き方 実践ガイド (ディスカヴァー携書 022)

これは2006年に出版された「インディでいこう!」をリニューアルしたものだ。わずか2年前だが、当時は著者名も「ムギ」としていたり、表紙のイラストがほんわかとしていたりと、今とはだいぶ趣が異なる。

ただ、内容は著者本人も言うように、その後の勝間本で繰り返し言われるビジネスマンとしてのサバイバルノウハウが詰まっている。と書くと、重厚なビジネス書を想像するかもしれないが、おそらく30分もかからずに普通の人なら読み終える。そのくらいカジュアルな軽い本だ。

書籍としては、女性に向けたもので、独立して生きる(結婚しないという意味ではない)「インディ」とそれとは対称的な「ウェンディ」を登場させ、インディで生きるための術を説く。女性向とは言え、書かれている内容は男性にも十分通用する。特に、アサーティブであることは今の社会重要だ。私事になるが、最近、どうも考えや行動が投げやりになっているように思う。時に攻撃的であったり、時には必要以上に卑下していたり。こういうときこそアサーティブであることが必要だろう。

勝間和代のインディペンデントな生き方 実践ガイド (ディスカヴァー携書 022)
勝間 和代

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2008年10月13日月曜日

押尾コータロー ライブ

古巣の近くの調布で押尾コータローのライブをやっていたので見てきた。

一言で言うのが難しいのだが、70年代のフォークの乗りで、最新のサウンド効果を理解した上でのアコースティックギターテクニックを駆使した極めて芸術性の高い大道芸というところだ。

なんか否定的に聞こえるかもしれないが、これは私の表現力が無いためだ。最近の経済状況を忘れるくらい :-)、楽しめたコンサートだった。

押尾コータローは私が以前にもこのブログで「押尾コータローがパフォーマーに見えるとき」と書いているとおり、そのテクニックには脱帽していた。その彼がどのように聴衆に対峙するかは楽しみだったが、結果は肩の力の抜けた、70年代のフォークのコンサートのような会場との調和を重んじるものだった。ちょっと以外だったが、考えてみると、彼のルーツがフォークにあることを考えると違和感は無い。

私は結構いろいろなコンサートに行っているが、こんなにMCの多いコンサートは久しぶりだ。そのMCも昔「ニューミュージック」という言葉があったときのミュージシャンのMCのような笑いをとるようなもの。ただ、彼は極めて自然体で、観客との対話を楽しんでいた。

今日、演奏された曲は以下のとおり。
最後の2曲がアンコール。

8割がたの曲で、曲ごとにギターを交換する。チューニングが狂うためだとは思うが、曲によってチューニングが違うのも理由ではないかと思う。彼の曲をコピーしたことがないのでわからないが、少なからぬ曲がオープンチューニングなのではないかと思う。オープンチューニングでなかったとしても6弦や5弦をベースラインを弾きやすいようにチューニングを変えていることは多いはずだ。

あと、彼の場合は、客席に聴こえる音を元にして奏法を生み出しているのではないかと、今日、生で聴いて改めて思った。ピックアップマイクをどのように取り付けているかまでは遠くの席だったので見えなかったが、おそらくピックアップマイクを通して観客席に聴こえる音を完全に研究し、そこに届くように、そこでの音が最高のものになるように、奏法を変え、曲自身を変えていると思う。

やはり彼は稀代のエンターテイナーだ。

今回は2階席だったが、次回は是非近くで見たい。いまだに、彼のタッピングの仕方が良くわからない。解明しなくては。

あと、自らが音楽を手がけた「三本木農業高校、馬術部 ~さんのうばじゅつぶ」について語るのは良いが、ほとんどネタばれになるくらいまで話さないで欲しかった :-)。時間の関係で見れないから私は良いが。

You&Me(初回生産限定盤)(DVD付)
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2008年10月12日日曜日

インフォコモンズ

インフォコモンズ (講談社BIZ)
インフォコモンズ (講談社BIZ)


だいぶ前に読んでいたが、ここに書くのが遅れてしまった、著者の佐々木俊尚氏からいただいた1冊。佐々木さん、いつもありがとうございます。

佐々木氏は情報洪水(インフォフラッド)により脳がパニックを起こしてしまい、結局生産性を落としてしまうことになったり、時間に追われ続け、より大事なことに時間を割けなくなってしまっていると言う。そして、これを解決するのが、情報共有圏(インフォコモンズ)であると提唱する。

情報共有圏(インフォコモンズ)は氏の造語だが、本書では次のように説明されている。
人が情報を収集する時、どのような枠組みの中で情報を収集するのかという、その文脈

正直、なんともわかりにくい。佐々木氏にお会いしたときにも、僭越ながら直接言わせていただいたのだが、本書の内容は大変興味深いものであるものの、ほかの氏の著作に比べると、馴染みの無い用語や難解な用語-佐々木氏の造語でなかったとしても、氏の解釈が入らないと、文章中でどのような意味で用いられているかわかないもの-が多いのが残念だ。数ページ戻って、用語を確かめたりして、また読み進めることも少なからずあった。

インフォコモンズは 1) マス、2) 中間共同体(マジックミドル)そして 3) 極私的(パーソナル)な3つの領域(エリア)に分類できるが、今拡大しているのは2番目のマジックミドルだ。

つまり、適度な大きさのドメインにおいて、ソーシャルな基盤を用いたパーソナリゼーション/リコメンデーションが行われることこそが望ましい(これは、佐々木氏の言葉ではなく、私が本書から超訳的に、走り幅跳び的に解釈した)のだが、適度な大きさのドメイン設定が難しい上に、プライバシーの問題、ビッグブラザーのような監視にならないかの不安、さらにはドメインが広がった場合のS/N比の問題と課題は多い。これを解決するのが、インフォコモンズを支える次の4つの要素からなるアーキテクチャだ。

1) 暗黙(インプリシト)ウェブである。
2) 信頼(トラスト)関係に基づいた情報アクセスである。
3) 情報共有圏(インフコモンズ)が可視化されている。
4) 情報アクセスの非対称性を取り込んでいる。

このすべてを持つサービスはまだ存在しない。本書ではいくつかのサービスの方向性(たとえば、多方向性SNSなど)を示すが、それぞれ課題も多い。なにより、それらのサービスが人に自然と溶け込むようになっていなければいけない。2010年ごろには普及すると氏は予測するが、私には正直そのような方向に進むかはわからない。何より、情報洪水に疲れてしまったユーザーがいくつかのサービスやインターネットそのものから離れることさえ考えられるのだから。

登場以来、順調な進歩とユーザーの支持を集めてきたウェブであるが、ここで過渡期を迎えているのは事実だ。インターネットのヘビィユーザーとしても考えていきたい。

インフォコモンズ (講談社BIZ)
佐々木 俊尚

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2008年10月9日木曜日

20世紀少年

読んだ。

20世紀少年全22巻+21世紀少年上下2巻。自分で買ったわけじゃなく、知人から借りたのだが、職場でまわし読みされてくるのが待ちきれないほどだった。

20世紀少年BOX

漫画をこれだけまとめて読むのなんて、久しぶり。一気に読めたのは、先の読めない展開、魅力的な登場人物、そして昭和への郷愁のためか。昭和への郷愁と書いたが、私は主人公たちよりはもっと下の年齢。残念ながら、大阪万博のことはほとんど覚えていない。行ってもいない。大阪万博の時代への郷愁という意味では、クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲のほうが上だ。もっとも、この漫画はそれを狙ったものではない。

このように複雑な人間関係やストーリーを当初から浦沢直樹氏は考えていたのか。多分、そうなんだろうが、私にはできない(って誰もそんなことは聞いていない)。

基本的には面白かったのだが、途中から少し失速感もある。登場人物の関連が複雑すぎて、誰が誰だかわからなくなることがあった。また、終わり方は不満あり。フルコースを楽しんでいたが、途中から何がなんだかわからなくなって、げっぷも出るし、最後のデザートが今ひとつという感じ。

2008年10月8日水曜日

ジャニーズ

Amazonアソシエイト(アフィリエイト)を使ってCasa BRUTUSの表紙をブログに貼っていて気づいたのだが、本来は表紙に出ている岡田准一(V6)が白抜きにされている。おぉ、ジャニーズの力というのはこんなところにも働くのかとちょっと感心。出版社も大変だ。ネット掲載用に別のイメージを用意しないといけないんだから。ご苦労様。

Casa BRUTUS (カーサ・ブルータス) 2008年 08月号 [雑誌]
Casa BRUTUS (カーサ・ブルータス) 2008年 08月号 [雑誌]

楽天でも一緒

2008年10月7日火曜日

8月に読んだ雑誌

すでに10月なのに、8月のことを書いている。ゆっくり歩きたいときもあるということで。

いろいろと読んだんだけど、今でも手元に残してある(というか、リアル書店では売り切れていたので、わざわざ取り寄せた)のは次の2冊。どちらも行きつけの美容院で読んで気に入ったもの。

BRUTUS (ブルータス) 2008年 8/15号 [雑誌]
BRUTUS (ブルータス) 2008年 8/15号 [雑誌]''

chill out - 心を鎮める旅、本、音楽の特集が良い。カスタマーレビューなどでは、写真が陳腐だとか言われていて、確かにそうかもしれないが、いろいろな人の勧める場所、本、音楽を見ているだけでも楽しい。喧騒の中から心を鎮める旅へ。オンとオフ。ホットとクール。このようなメリハリが、刺激の変化が、人間として必要なのだろう。冒頭の茂木健一郎さんのコラムも素敵。

これを見て、奄美に行きたくなったと言うと、なんて短絡的なと思われるだろうけど、ホントだ。

あと、京都の高雄観光ホテルの川床にも行きたくなった。

Casa BRUTUS (カーサ・ブルータス) 2008年 08月号 [雑誌]
Casa BRUTUS (カーサ・ブルータス) 2008年 08月号 [雑誌]''

こっちも現実逃避系。奈良で見た世界遺産に圧倒されたこともあって、ただただその歴史の重みを感じてみたくなって買った一冊。

いわゆる聖地というところの凄みにも憧れるし、アジアのリゾートでの時間を忘れられそうな空間も行ってみたい。友人から教えてもらっていて、一度調べた(で、あまりの高額にあきらめた)が、アマンリゾーツはやはり素敵。死ぬまでに行けるだろうか。