2008年11月25日火曜日

思考の整理学

何故、こんな古い本(1986年)が重刷されて、書店で平積みにと思ったのだが、ぺらぺらめくってみて、興味を惹かれたので買って読んでみた。これがリアル書店の良いところ。

まず、最初にグライダー人間と飛行機人間(もしくはグライダー能力と飛行機能力)という言葉が出てくる。この言葉が本書のテーマとなっている。
 ところで、学校の生徒は、先生と教科書にひっぱられて勉強する。自学自習ということばこそあるけれども、独力で知識を得るのではない。いわばグライダーのようなものだ。自力では飛び上がることはできない。

<中略>

 学校はグライダー人間の訓練所である。飛行機人間はつくらない。グライダーの練習に、エンジンのついた飛行機などがまじっていては迷惑する。危険だ。学校では、ひっぱられるままに、どこへでもついて行く従順さが尊重される。勝手に飛び上がったりするのは規律違反。たちまちにチェックされる。やがてそれぞれにグライダーらしくなって卒業する。 

<中略>

 人間には、グライダー能力と飛行機能力とがある。受動的に知識を得るのが前者、自分でものごとを発明、発見するのが後者である。両者はひとりの人間の仲に同居している。グライダー能力をまったく欠いていては、基本的知識すら習得できない。何も知らないで、独力で飛ぼうとすれば、どんな事故になるかわからない。

<中略>

 この本では、グライダー兼飛行機のような人間となるには、どういうことを心掛ければよいかを考えたい。
 グライダー専業では安心していられないのは、コンピューターという飛び抜けて優秀なグライダー能力のもち主があらわれたからである。自分で翔べない人間はコンピューターに仕事をうばわれる。
1986年(実際には文庫化の前に1983年に別タイトルとして発行されているので、1983年だ)の段階でコンピューターを計算機としてではなく、人間の知識処理を手助けする機械として認識していた先見性に驚く。今でも、いや、今こそ、この考え-すなわち、「グライダー兼飛行機のような人間となる」は重要だ。

本書で述べられている具体的な手法はパーソナルコンピュータやインターネットが発達、普及した今ではやや古臭く感じるところもあるが、考え方そのものは今でも新鮮だ。

寝ること(これは自分)や寝させる(これはアイデア)こと、「知のエディターシップ」としての編集能力、アナロジー、セレンディピティなどの重要性が語られる。これらは時代を超えて通用する思考の整理法だろう。

また、忘却やすてることの重要性も著者は説く。
 本はたくさん読んで、ものは知っているが、ただ、それだけ、という人間ができるのは、自分の責任において、本当におもしろいものと、一時の興味との区分けをする労を惜しむからである。
 たえず、在庫の知識を再点検して、すこしずつ慎重に、臨時的なものをすてて行く。やがて、不易の知識のみが残るようになれば、そのときの知識は、それ自体が力になりうるはずである。
耳が痛いくらいの言葉だ。良く言われているものの、買っただけ、読んだだけ、ブックマークしただけで、満足してしまうことがある。これらは、知識として、そして知恵に醸成したものとは大きな違いがある。

あと、とにかく書いてみることやしゃべるなども勧められている。ここで言う「書く」はコンピューターが発達した今でも、紙にペンや鉛筆で書くことだと思う。自分がこんな仕事をしていながら言うのはいけないのかもしれないが、やはり肉筆で書くことにより生まれる何かはある。しゃべる際には、垣根を越えることを著者は勧める。インブリーディング(inbreeding)という言葉は生物学において同族での交配のことだ。種の健全な発展のためにはインブリーディングが好ましくないことはDNAレベルで刷り込まれているが、人間の知識/知恵の獲得のための交流もやはり同族だけではなく垣根を越えたインターディシプリンであることが望まれる。

このようにいくつも得られることがある本書だが、コンピューターやインターネットの利用によってもっと工夫できると思われる手法もある。典型的なのが整理術としての、スクラップやノート(カードノート、メタノート)の活用の部分だ。多くの情報がインターネット上に置かれる今、それらの整理にもコンピューターとインターネットを使うほうが望ましい。先ほどの、書く場合には、肉筆と紙のノートが良いというところをどう結びつけるかが課題だが。また、アイデアや得た知識を発信することや垣根を越えての違う分野からのフィードバックを得ることも今ならばインターネットを使ったほうが広がるだろう。

あと、本書で1つだけ賛成できないのは、「朝食を抜くこと」が勧められているところだ。朝型で作業することを説明しているところで出てきたのだが、朝食を抜かしたら脳が機能しないだろう。

ところで、価値が確定するまでに時間がかかる例として、島田清次郎の「地上」が出てきた。本書の中ではあくまでも例として少し書かれているだけだが、久しぶりにこの名前を聞いた。検索しても、1万件もいかない検索結果しかないようだ。やはり忘れられてしまっているのだろうか。本書とは関係ないが、少し残念だ。

思考の整理学 (ちくま文庫) (ちくま文庫)
外山 滋比古

4480020470

関連商品
ちょっとした勉強のコツ
「読み」の整理学 (ちくま文庫 と 1-3)
ことわざの論理 (ちくま学芸文庫)
知的創造のヒント (ちくま学芸文庫 ト 10-2)
本を読む本 (講談社学術文庫)
by G-Tools