2008年8月3日日曜日

泳ぐのに、安全でも適切でもありません

泳ぐのに、安全でも適切でもありません (集英社文庫)
泳ぐのに、安全でも適切でもありません (集英社文庫)

久しぶりの江國香織氏。集英社文庫の夏の一冊になっていたので買ってみた。ちょっと前(2002年)の作品。

秀逸な短編集。ゆるやかに流れるストーリーが心地よい。

さまざまな世代の女性が主人公として登場する短編10篇。なかでも「うんとお腹をすかせてきてね」。題名からだけでも、その艶が感じられるが、食事と愛との絡み合いが村上龍氏の「村上龍料理小説集」などを彷彿とさせる、などと書いてしまうのは、いつも常に自分の好きなものや知っているものと比べてしまう私の悪い癖か。

江國香織氏の作品はいろいろと読んでいるが、独特のリズムで愛読者を安心させるものがある。一度はまってしまうとなかなか抜け出せない。それでいながら、作品ごとにどきりとさせるものがある。自分の身近にいそうでいなさそうでやっぱりいてもおかしくないような登場人物たちも魅力だし、女性作家ならではなのかもしれないが、はかない感じに展開する恋愛。

ちなみに私は「犬小屋」に出てくる男主人公のほうに妙にシンパシーを感じてしまった。ネタばれになるので、ここには書かないが、彼の気持ちはなんとなく理解できる。

「愛にだけは躊躇わない女たちの話」(帯および裏書より)ということだが、「泳ぐのに、安全でも適切でもありません」というタイトルも素敵だ。どっかのアメリカの海岸に実際に書かれていた(It's not safe or suitable to swim)ということだが、それでも泳ぐのが素敵だ。

参照: 東京タワー