2008年1月12日土曜日

ONCE ダブリンの街角で

観たかった映画「ONCE ダブリンの街角で」がまだ渋谷で上映されていたので、先週末に行ってみた。

送信者 ONCE ダブリンの街角で


ほかの映画を見ていたときに予告編で流れていたFalling Slowly(テーマ曲)にやられてしまったのだが、この曲に限らず、映画と音楽が見事に調和のとれた映画だ。主役のGlen HanzardMarkéta Irglováという二人が実際の設定と同じアイルランドとチェコのミュージシャンだったというのは知らなかったが、実際の二人の生い立ちもかなりドラマチックなものであることが公式サイトにあるインタビュー(トップページからレポートをクリック)を読むとわかる。

まず、Glenの生い立ち。
グレン:5年間ストリートミュージシャンでした。学校でたまたま先生がDJだったのですが、自分の集中力がなくて授業がちゃんと受けられなかったんです。それで13歳の頃、ディランのアルバムで誰が演奏したか分かるくらい音楽が好きなら、一回外に出て何かやったみればとアドバイスされたんです。1年後に戻ってきたとき何か理由を見つけて学校を卒業できるようにしてあげるよと言われ、母が了解してくれました。自分にとっては目が開かれた状態になり、世の中が広がりました、当時は絵描きの女性と一緒に住んでいたのですが、彼女はとても優しくしてくれました。
そして、Markétaとの出会い。
グレン:まず彼女に会ったのは6年前で、彼女は13歳でした。彼女の親も知っています。当時、滞在する場所を探していて、彼女の家に滞在することになったのですが、そのころ自分はホームレコーディングという形でバンドの曲作りをしていました。彼女はたまたまピアノがすごく上手だったんです。なので、参加してもらおうと考えたのですが、彼女はこれまで譜面がない状態の音楽をやったことがありませんでした。彼女は即興などを含めて色々と勉強してくれて、すごく上手くできるようになり、そのうち一緒に歌ってくれるようになりました。とても勇気ある行動だったと思うのですが、一緒にチェコなど旅してコンサートに参加するようになり、ピアノと歌を担当してくれたんです。
映画はわずか17日間で撮影されたようだ。このときの模様をGlenは次のように語っている。
撮影では金銭的な制限があることで、逆にクリエイティブになるということがあると思います。17日という短い期間で、朝から晩まで作業をしていました。朝 6時から夜7時まで作業して、時々夜に曲を書いたりしていました。最初にリリースパーティーをすると決めてしまうのが一番良い解決策なのかもしれません。人というのは、時間と金銭的な制限があれば逆にクリエイティブになれるのだと思います。母親は例えお金が無かったとしても、考えながら一週間分の食料をつむぎ出すことができるんです。映画も同様だと思います。そして、曲のひとつひとつがそういった制限の中から生まれてきたのだと思います。
「人というのは、時間と金銭的な制限があれば逆にクリエイティブになれるのだと思います」というのは、以前のブログ投稿にも書いたが、亀田誠治氏が言っていたのと同じだ。
自由なだけな環境からはアイデアしか出ない。制約のある環境でこそ、アイデアを元に複数の人間でクリエイティブなものを生み出すことができる。
この映画は、日本語の予告編では「ラブストーリー」と紹介されていた。確かにラブストーリーなのだが、いわゆる恋愛とは違うラブストーリーだ。特に、結末に関しては、正直予想と異なっていた。ハリウッド映画だったら、こういう終わらせ方はしなかったのではないだろうか。これについては、GlenとMarkétaが次のようにインタビューで語っている(公式サイトより)。(ネタバレ注意
グレン:まず、結ばれないということが、この映画にとってとても大事な点だと思います。それが、映画で伝えたいことそのものだと思うんです。ロマンティックにならないことが必要であって、そうすることで逆によりロマンティックな状況が生まれるのではないかと思います。ジョン・カーニーは最初にキスシーンを入れていました。それで、一度だけキスをするという意味で「ONCE」というタイトルが生まれたのですが、僕たちは皆反対していて、キスはないと思っていたんです。彼女の役は、とても相手を尊重する人で、子供や夫もいるので、キスをしないということが前提になっていました。男はもちろんキスしたいのですが、彼女の意思を尊重します。彼女はとても素晴らしく、良い人間で、実際にキスをしてしまったら何か違うと思うんです。実生活においては、二人はその後キスをしましたけどね(笑)。

マルケタ:私も彼の意見に賛成です。彼女には子供や夫がいますし、基本的に友情を描いた物語だと思っています。まず、愛が二人の間に通い始めるのですが、ロマンティックな愛にまでは至りません。私が演じたキャラクターは、そういうことはしない人間だと思っています。子供たちのことを考えながら、二人の関係を見ていくという、親の視点になるわけです。ベストを尽くして諦めないというのも彼女のキャラクターだと思います。なので、キスをしてしまうのは間違っていると思います。子供や夫がいながら、他の関係も始めてしまうというのはありえないと思います。と同時に、一般的な男と女の関係に見られることを避けたかったという気持ちもあります。現実では、好きな人と必ずしも一緒になれるわけではないということを表していると思います。
最後に二人の演奏するFalling Slowlyのライブビデオを張っておく。二人の素敵な声をもう一度。