2008年1月19日土曜日

ネット未来地図 ポスト・グーグル時代 20の論点

本書も著者の佐々木俊尚さんからいただいた本。佐々木さん、いつもありがとうございます。

それにしても、すごい勢いで書籍を出されている。まず、そのパワーに圧倒される。

ネット未来地図 ポスト・グーグル時代 20の論点 (文春新書 595)

日々新しいサービスやビジネスが生み出されるネット社会。今後のネット社会の方向性を20の論点に整理して解説したのが本書だ。佐々木氏の書籍はかなり読んでいるが、このような切り口で書かれたのは初めてではないだろうか。1つ1つの論点が明快で、すんなりと頭に入ってくる。後で読み直すときも、該当する論点を探し出すのも容易だ。氏のライターとしての実力を思い知らされる。

解説されている20の論点は以下のとおりだ。
  • ビジネスとインターネット
    • 論点1 amazon アマゾンが日本のオンラインショッピングを制覇する
    • 論点2 Recommendation お勧め(レコメンデーション)とソーシャル(人間関係)が融合していく
    • 論点3 行動ターゲティング 行動分析型広告は過熱し、ついには危うい局面へ
    • 論点4 仮想通貨 電子マネーはリアル社会をバーチャルに引きずり込む
  • インターネット業界
    • 論点5 Google グーグル vs. マイクロソフト 覇権争いの最終決戦
    • 論点6 Platform 携帯電話キャリアは周辺ビジネスを食い荒らしていく
    • 論点7 Venture 日本のネットベンチャーの世代交代が加速する
    • 論点8 Monetize ウェブ2.0で本当に金を儲ける方法
  • メディアとインターネット
    • 論点9 YouTube ユーチューブは「ネタ視聴」というパンドラの箱を開いた
    • 論点10 動画 動画と広告をマッチングするビジネスの台頭
    • 論点11 TV 日本のテレビビジネスはまもなく崩壊する
    • 論点12 番組ネット配信 NHKが通信と放送の壁をぶち壊す
    • 論点13 雑誌 雑誌とインターネットはマジックミドルで戦う
    • 論点14 新聞 新聞は非営利事業として生き残るしかない
  • コミュニケーションとインターネット
    • 論点15 Second Life セカンドライフバブルの崩壊する時
    • 論点16 ネット下流 携帯電話インターネット層は新たな「下流」の出現
    • 論点17 Twitter 「つながり」に純化するコミュニケーションの登場
    • 論点18 Respect 「リスペクト」が無料経済を収益化する
  • 未来とインターネット
    • 論点19 リアル世界 検索テクノロジーが人々の暮らしを覆い尽くす
    • 論点20 Wikinomics 集合知ウィキノミクスが新たな産業を生み出す

自分の仕事に関係がありすぎるトピックが多く、会社と関係ない立場で書いていると宣言しているこのブログでもなかなかコメントしずらい。とりあえず無難なレベルでのメモ書きおよび感想を以下に書く。

行動ターゲティング広告に関しては、Yahoo! JAPANとOvertureがYahoo! JAPANの持つ膨大なユーザーデータを活かすことによるアプローチを解説している。ただ、仮想通貨のところでも触れられているように、個人-少なくとも個人の属性を利用したサービスは常に個人情報(PII)をどこまで事業者に提供するかという問題との兼ね合いが難しい。常に、Opt-inモデルを採用することはユーザーの利便性を低めることになる。OSを開発していたときに、セキュリティと利便性は相反するということが痛いほどわかった(Windows VistaのUACを考えてみて欲しい)が、同じことがウェブベースのサービスの場合に当てはまるのであろう。ただ、OSなどのパッケージソフトと異なり、利用者、事業者そして実際の社会におけるコンセンサスビルディングが必要になる。

仮想通貨では、PiTaPa(関西で利用できるSuicaやPasmoのような仮想通貨)の行動ターゲティング広告が面白い。本書の中では次のように解説されている。
駅の自動改札を通るたび、乗降駅や時間帯などに応じて、周辺のグルメ情報や自動的に携帯電話にメール配信される仕組みになっている。
また、仮想通貨はもともと事業者における利用者の囲い込みがゴールであったが、今ではポイント交換などを含めた共通インフラの可能性について協議しているようだ(経済産業省の「企業ポイント研究会」)。データ交換のフォーマット統一などが検討されているようであるが、この「フォーマット統一」というのはほかのサービスでも今まで何度か試みられたことがあるものの、すべてが成功しているわけではない。今回はどうであろうか。利用者から見た場合、異なる仮想通貨が存在していることによる利便性の低下はもはや苦痛にさえ感じるレベルになっている。1社にすべてを握られることの不安はあるが、必要以上のプレイヤーが存在することは期待していない。

論点6 Platformで紹介されているNTTドコモの「マイライフ・アシスト・サービス」は面白い。これについては書籍に詳しく解説されているが、日経BPのITProでも簡単に紹介されている。

経産省の検索エンジン開発、NTTドコモと日本航空の案を採択
 NTTドコモは、携帯電話を利用した技術/サービスを提案。携帯電話を介して人の行動情報を蓄積し、高度な解析技術を使って、個人にマッチする情報/コンテンツを探し出して提供するものだ。

<中略>

NTTドコモの提案は、書籍販売のECサイトで用いられる“レコメンデーション・エンジン”に近い。単純にいえば、「過去の行動履歴から判断して音楽好きな人が、音楽イベントの会場に近づいたらその案内を表示する」といった形だ。ただ、行動情報解析はより複雑なものになる。

 この核となる技術は、ユーザーの行動履歴を解析して、次の行動を予測してその人に役立ちそうな情報を検索する「行動連鎖型検索エンジン」。行動履歴の解析のために、大量の行動情報から行動モデルを作成する。携帯電話の位置情報などを入力として、モデルを介して必要な情報を検索するわけだ。
この考えは携帯ではがすでに多くの人々に行き渡っており、さらに単なる音声通信機器からインターネット端末へと進化したという事実をベースとしている。確かに、身の回りには携帯電話だけでなく、多くのコンピューターがあるが、どんなときにも身に着けているのは携帯電話だ。さらに、これに必要十分なインターネット接続機能、一昔前のメインフレームに匹敵するほどのデータ処理能力、地理情報を把握するためのGPS、一般のケースではほぼ事足りる携帯カメラ機能がついているとしたら、身の回りのコンピュータデバイスすべてに重複した機能を持たせるよりも、デジタルパーソナルアシスタント(PDA)として期待できる携帯電話を最大限に活用し、それ以外の役割を回りのコンピューター機器が持つようにすれば良いだろう。

論点9と10のYouTubeと動画についての部分は、あまりに艶かしすぎて、コメントしずらいので、ちょっとだけにするが、YouTubeの目的を「ネタ視聴」としたのは面白い論評だ。もっとも、ニコニコ動画などはさらにそれを進化させたものと市場では評価されているようだ。ニコニコ動画については、本書や日経BP - ニコニコ動画が示した「ネタ視聴」の新たな可能性を読んでみると良いだろう。特に、ニコニコ動画の「番組制作者ではなく、視聴者がCMを入れる」 という考え方は面白い。

論点11のTVでは、米国で1970年代に相次いでプライムタイムアクセスルール(PTAR)とフィンシンルールを制定し、これにより3大ネットワーク(ABC、CBS、NBC)の影響力を強め、コンテンツ産業の力を強めることに成功した。この2つのルールについては、日経ネットマーケティング TV 2.0への道のり: 番組コンテンツの流動化実現するための条件とはの説明がわかりやすい(と思ったら、これも佐々木氏だった)。
米国では「プライムタイム・アクセスルール(PTAR)」と「フィンシン・ルール」という政府が定めた二つの規制政策が存在したからだ。前者のPTAR は、3大ネットワークの直営局と加盟局は、プライムタイム(午後7時~11時の視聴率の高い時間帯)4時間のうち、1時間はネットワーク以外の番組を放送しなければならないという規則。1971年から96年まで施行された。また後者のフィンシン・ルールは、3大ネットワークの独占的影響力を排除するために 72年に導入された規則で、3大ネットワークが外部制作会社の制作番組について所有権を確保することを禁止し(フィナンシャル・インタレスト・ルール)、 3大ネットワークが自社ネットワーク経由以外でローカルテレビ局に対する番組放送権の販売を行うことも禁止している(シンジケーション・ルール)。この法律も当初の目的を果たしたとして、95年に廃止されている。
この後にも解説されているが、「コンテンツ」と「コンテナ」のそれぞれのプレイヤーが独立で存在できることが今のネット社会であるが、従来のメディアはその両方のプレイヤーであることで市場を独占してきている。このモデルはTVだけでなくすべてのメディア、さらには業界に当てはまるのではないだろうか。

論点12での番組ネット配信においては、NHKがキャスティングボードをつかむというのは確かにそうだろう。本書でも書かれているように、「CM広告料を維持する」という足枷を持っていないのは大きい。監督官庁により、NHKは次の世代のサービスを先んじて行わせるという方針があるようだが、この話に関してはそれは正しい方向かもしれない。これもかなり艶かしい話なので、これ以上はコメントしないが。ただ、本書の中で書かれていた「大道芸方式」から「木戸銭方式」へというのは非常に面白い例えだと思う。前者は今の受信料方式のことで、後者は番組ごとのPPV(Pay Per View)のような方式だろう。

論点13の雑誌に対する考察もおもしろい。マスメディアとマイクロメディアの間のマジックミドルという層をネットと雑誌がとりあっているという話であり、今後はやはりネットが伸びていくのではないかと佐々木氏は考察する。マジックミドルについては、
FPN-注目すべきはロングテールでもヘッドでもなく、真ん中のマジックミドルらしい
でも解説されているが、本書の中で佐々木氏は次のようにこの3つを分類する。
1. マスメディア 新聞、大手週刊誌など大部数の国民的雑誌
2. マジックミドル ローカル紙、コミュニティ誌、ソーシャルブックマーク、月間百万ページビューを誇るような人気個人サイト
3. マイクロメディア 個人のウェブサイト、ブログ、ミクシィの日記、2ちゃんねるの書き込みのひとつひとつ

このようなメディア層に対してネットと雑誌が真っ向からぶつかるというのだ。しばらくは雑誌のメリット(手軽さや表現力)が勝つだろうが、その後はネットに移行すると佐々木氏は分析する。

インターネットは基本的に無料経済モデルであるが、論点18ではこれをRespectによって解決しようというモデルが提示されている。「投げ銭」という考え方である。システムとしては面白いと思うものの、無料であることが当たり前の世界で、どこまでRespectしてもらうような文化を生み出すかが課題に思う。結局はコンテンツを大事にし、そのクリエイターに対する尊敬が生まれるような社会でない限りはいくらシステムやインフラが整ってもそれが利用されることはない。日本においてプロシューマーがなかなか登場しないのも同じような理由ではないだろうか。

簡単に自分の覚書程度にメモを書くつもりだったのだが、思いのほか長くなってしまった。それほどまでに、論点ごとに分かれた非常にコンパクトな書籍ではあるのだが、中身は濃く、かつこれを元にいろいろと考えさせられるものがある。

あまりにも自分のやっていることと近いため、会社とは関係ないブログであっても、あまり突っ込んだコメントができないのが残念なくらいだ。ということで、この本はお勧めだ。

<参考> 本ブログでの佐々木氏の書籍の感想